一身独立

多動性を発揮し、「21世紀の百姓」を目指す27歳元エリートのブログ。

「制度」に関する演繹的研究と帰納的研究


今期、「比較経済制度分析」という授業を履修している。これがなかなか面白い。

面白いと思える理由の一つは、制度は日本を分析する際にも、世界を分析する際にも有用な概念であるためである。

例えば日本企業の制度は、経済学において興味深い研究対象であり続けてきた。日本が爆発的な経済成長を遂げていた1980年代には、日本型経営がもてはやされた。しかし失われた20年を経て、日本型経営は制度疲労の象徴とみなされるようになった。同じ制度にも関わらず、焦点が正から負へと移行していったのである。比較経済制度分析は、資本主義の多元性を認め、日本と海外の企業制度の違いを見たり、経済の成功・失敗の要因を制度に求める営みである。ある意味では、経済学と経営学のあいのこと言えるだろうか。

一方で世界の貧困問題を考える上でも制度は重要である。貧困問題の克服に相対的に成功している先進国は、概して民主性を取っており、汚職も少ない。それに対し、貧困国は政府の統治が有効に機能せず、権威主義体制を取っていたり、汚職が蔓延している場合が多い。アメリカとメキシコの国境の街は、風土は全く同じにも関わらず、北と南で全く生活水準が異なる。このような違いを生んでいるのは、制度とそれがいかに機能しているかの差にあると断言出来る。

人間が生きる社会において、制度は切り離したくても付き合わざるを得ない空気のような存在である。授業では経済学者の教授が、ゲーム理論一般均衡理論という演繹的アプローチと、歴史研究という帰納的アプローチの双方の研究を紹介しながら、制度の生成過程、その制度の崩壊と維持の境界線はどこにあるのか、といった問題について考える講義となっている。

面白い理由の一つは、知っていることと知らないことのバランスが良かったからかもしれない。私は既にゲーム理論の単位を取ったので、ゲーム理論の基礎は解る。また「本人・代理人問題」やモラル・ハザードのような既知の経済学での重要な概念も登場する。

授業で紹介された研究の中から、面白かった研究を紹介しよう。

研究者の名前は、アヴナー・グライフ(Avner Greif)という。このグライフが化け物のような人で、歴史学と経済学の修士号、経済学の博士号を取得している上に、7ヶ国語を操るという。
彼の研究は、ゲーム理論を用いた演繹的研究と、歴史研究に基づく帰納的研究の双方を取り入れた「(教授曰く)合わせ技一本」のものである。たいがいの研究者は、演繹と帰納のどちらかに偏ってしまっている。彼の研究は、どちらのアプローチを取る研究者にとっても、面白い研究になっているだろう。

グライフは、中世の地中海貿易を行っていた二つの経済圏の異同に着目した。現在のチュニジアを中心に商圏を形成していったマグレブ人社会と、ジェノヴァを起点に商圏を拡大していったジェノヴァ人社会である。似たような社会であるにも関わらず、なぜマグレブ人社会は衰退し、ジェノヴァ人社会は発展したのか。これがグライフが立てたパズル(解きたい難問)である。

グライフによれば、ある問題の解き方両社会で異なっていたことが、このような異同が表れた要因だという。そのある問題とは、「本人・代理人問題(principle-agent problem)」と呼ばれる難問である。

商売を拡大するには、従業員を雇って雇い主の意図通りに事業を行ってもらう必要が出てくる。この時に商人が直面するのが、「本人・代理人問題」なのである。
この問題の例はたくさんある。例えば賃貸物件の入居者は、管理人にお金を払って管理を頼んでいる。実際には管理人(代理人)が完全に入居者(本人)のために、働くという限らない。鍵となるのは、本人が代理人に支払う賃金の水準にある。この例の場合、入居者が入居する限り関係は続くため、一回切りではなく繰り返しゲームとなる。管理人は将来の期待利得も勘案して入居者の利益に適う行動を取るか否かを決定する。

本人からしてみれば、適切に代理人を監視出来れば良いのだが、あまり監視に費用を割かれてしまうと、代理人を雇って委託している意味がなくなってしまう。この問題がディレンマを誘発する由縁である。

「本人・代理人問題」は、国民が政治家や官僚を雇う場合、株主が経営者をはたらかせる場合、経営者が従業員をはたらかせる場合など、社会に多くの例がある。

この問題に対し、マグレブ人社会は以下のように対応した。商人(本人)の間で情報網を整備し、一度でも商人の意図通りに行動しなかった人とは、契約を結ばないようにしたのである。この手法では、確実に商人の意図通りに行動しなかった人を排除できる一方、情報網の維持にコストがかかり、情報網にかからない新規の代理人を雇うのは躊躇われる制度設計になっていた。

かたやジェノヴァ人社会は異なる手法を取った。ジェノヴァ人商人は、代理人の賃金を高く設定し、過去の履歴に関係なく代理人を雇った。これによって、代理人は将来の利得も考慮して、積極的に商人の意図通りに行動するようになった。またこの手法ならば、新規の代理人も雇いやすく、商圏を広げることを簡単にした。

マグレブ人社会の情報網の維持にはコストがかかる上に、代理人の立場に立ってみれば賃金の高いジェノヴァ人社会の方が魅力的だ。こうなると、どちらが効率的で商圏をひろげることが出来るかは明らかである。

繰り返し述べると、グライフはゲーム理論・経済学の演繹的知見と、丹念な歴史文献渉猟による帰納的知見を活用し、制度の違いが、発展の差にどう影響するかを明らかにした。

比較歴史制度分析 (叢書 制度を考える)

比較歴史制度分析 (叢書 制度を考える)


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