一身独立

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「気候変動の経済学(スターン・レビュー)」


今日は気候変動に関する意思決定に対して、経済学の観点から提言した「スターン・レヴュー」の要約版を読んだので、紹介したい。本文は600ページ以上ある上に、がっつり経済学的分析をしているので、とてもではないが読めなかった。

本報告書は、イギリス政府への提言という形を取っており、経済学の常識の一つである「費用便益分析(CBA:Cost-Benefit Analysis)」を気候変動に適用した意欲的な文献である。

2006年に発表された少々古い文献であるので、近年の太陽光発電や蓄電池のコスト低下が織り込まれていないという要素は割り引く必要がある。しかし本報告書の結論に大きな影響を与えるものではないだろう。

本書は二部に分かれている。前半では費用便益分析の結果と結論の根拠が示されている。後半では気候変動解決のために対策を行うにあたって、重要な3つのポイントが提起されている。

本報告書の結論を簡潔に述べよう。それは「強固かつ早期の対策を行うことによる便益は、そのコストを上回る」というものである。

まず報告書は、気候変動問題解決の切迫性に言及している。積極的な対策を取らない「BAU(Business as Usual)シナリオ」に従えば、2035年にも大気中の二酸化炭素濃度は、550ppm(産業革命前が280ppm)に達する可能性がある。この濃度に達すると、産業革命前と比べた世界の平均気温上昇は、少なくとも77%の確率で2℃を上回るという。

一昨年合意された「パリ協定」は、産業革命前と比べた世界の平均気温上昇を2℃以内に抑えることを目標として掲げた。そして今世紀中の脱炭素化を目標として掲げた。しかし最新の気候科学は、直近の10年から20年の取り組みが死活的に重要であることを示している。はっきり言って石炭火力発電所を新しく建設している余裕は、全くないのである(日本には40基以上の石炭火力発電所新設計画が存在する)。特に「パリ協定」では努力目標とされた、「脆弱な20カ国(Vulneravle 20)」やNPOが求めている「産業革命革命前と比べた世界の平均気温上昇を1.5℃以内に抑える」目標を達成するためには、あと5年から7年での世界の脱炭素化が、炭素予算上は求められる。

BAUシナリオでは、来世紀には産業革命前と比べた世界の平均気温上昇が5℃に達する可能性が少なくとも50%ある。こうなると、熱帯・亜熱帯地域での農作物の収量の減少、海面上昇による沿岸地域の被害などが深刻化する。東京などの沿岸都市のゼロ・メートル地帯も使えなくなる恐れが出てくる。洪水と干ばつの被害も増し、数億人が難民と化す恐れもあるという。

それらを指摘したうえで本報告書は、BAUシナリオ下での気候変動のコストを、「世界の1人当たり消費額の平均を5%から20%減少させる」と予想している。なおかつ気候変動解決のための対策コストは、この(対策しなかった場合の)コストを大きく下回ると予想している。

本報告書の目標は、二酸化炭素の濃度は550ppm以下に安定化させることとしている。上記の国々やNPOは、この水準ですら高いとしていることを留意しておく必要があるだろう。
ひとまず550ppm以下を目標として受け入れた場合、2050年までにGDPの1%程度の費用が必要になると本報告書は推定している。


後半では、気候変動対策を効率的に行うための3つのポイントを挙げている。その3つとは、「炭素価格」「技術政策」「行動変化」である。

炭素価格の重要性を指摘している点は特に注目に値する。以前から私は日本国内で炭素税を機能させるべき、という記事を書いてきた。

flatenergy.hatenablog.com

本報告書では、世界全体で通用する炭素価格を形成し、限界費用の低い対策(例えば森林伐採防止)を打つための制度を整える必要性を提言している。
温室効果ガス削減は、世界中のどこでやっても良いので、無論効率的に排出削減を実施するために、限界削減費用の低い対策を優先して行っていくべきだ。

見過ごされがちな適応の問題にも、本報告書は目を配っていた。目新しいことはなく、最貧国での対策には先進国の支援が必要と言う言及があった。


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