読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

エネルギーで一身独立

自由・自立・自律と、エネルギー問題を中心にサステナビリティに関する有益な情報を提供するための記事を書いています。

日本のエネルギー政策をめぐる全国紙の報道の問題点

再生可能エネルギー 原子力発電 日本の包括的なエネルギー政策 気候変動


 本記事では日本のエネルギー政策をめぐる日本の全国紙による国際報道の問題点について取り上げる。東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故以降、新聞のエネルギー政策への注目度も上がったように見受けられる。しかしそれらの報道の中には、当然含まれているべき視座が欠けているものが含まれている。

 本記事では全国紙がエネルギー問題というイシューの全体像に着眼点を置くことが出来ていないという問題点を指摘し、全国紙が取り上げない専門家の提案について紹介する。

 エネルギー問題の全体像とは何だろうか。「我が国のエネルギーバランス・フロー(図表1)」によれば、2011年時点で一次エネルギー供給に占める割合は、石炭が22%、石油が43%、天然ガスが23%であり化石燃料だけで88%を占めている。これだけの割合を占めているのにも関わらず、日本の主要新聞は化石燃料を扱う石油元売り企業や石油化学企業の動きは扱っても、化石燃料の利用に関する報道や政策提言をほとんどしてこなかった。日本のエネルギー問題に関する議論の全ては、これだけ化石燃料に依存しているという事実から始めるべきだと筆者は考える。なぜならエネルギー密度の高い化石燃料の利用が出来なければ、現代の文明的な生活は一日足りとも成り立たないためである。国民の生命を守る文明的な生活を守り、日本のエネルギー安全保障を確立する上で、最初に論点とすべきは、いかに化石燃料を受容可能な価格で安定的に手に入れるか、そしていかに有効活用するかである。

図表1「我が国のエネルギーバランス・フロー概要」
f:id:flatenergy:20160719042449p:plain
出典:エネルギー白書2013
出典:資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」

 読売新聞・日本経済新聞産経新聞朝日新聞毎日新聞の主要五紙のうち、エネルギー問題に関する特集ページを設けているのは、日本経済新聞産経新聞朝日新聞だ。ii(日本経済新聞 環境・エネルギー特集ページ http://www.nikkei.com/tech/ecology/ 最終アクセス日2015.7.12朝日新聞原発・エネルギー」特集ページ http://www.asahi.com/special/energy/ 最終アクセス日2015.7.12産経新聞原発・エネルギー」特集ページ http://www.sankei.com/life/newslist/nuclear-n1.html 最終アクセス日2015.7.12)その三紙の中で原子力発電政策・再生可能エネルギー政策・地球温暖化政策以外の政策を取り上げているのは、日本経済新聞のみである。これらのイシューはそれはそれで重要な問題ではあるが、日本全体のエネルギー安全保障(「安全保障(security)」という言葉には普遍的な定義が存在しない(防衛大学校安全保障学研究会編著『安全保障学入門』亜紀書房, 2009年, pp3)が、本記事では、2010年のエネルギー白書序節(http://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2010html/1-1-0.html 最終アクセス日2015.7.12)の定義に従い「エネルギー安全保障」を「国民生活、経済・社会活動、国防等に必要な『量』のエネルギーを、受容可能な『価格』で確保できること」と定義する)という最重要イシューを考察するためのサブ・イシューに過ぎない。これらのイシューがなぜサブ・イシューなのか。順番に検討していこう。

 「我が国のエネルギーバランス・フロー(図表1)」によれば、2011年時点で原子力が一次エネルギー供給に占める割合は、約4.2%に過ぎない。原子力はなぜこのような低い水準に留まっているのか。その主要な理由は、実質現在の世界では原子力エネルギーのほとんどは発電用のみに使われ、輸送や製造業の用途には使われないためである。

 橘川(2012)pp14-15によれば、原子力発電の将来利用は次の三要素によって決まるものであり、独立変数ではないという。その三要素とは「太陽光、風力など再生可能エネルギーを利用する発電の普及につながる技術革新がどこまで進むか(とくに出力が不安定である太陽光発電風力発電の弱点を補う蓄電池の技術革新がどこまで進むか)」「民生用を中心にして省エネルギーによる節電が行われ電力使用量がどの程度減少するか」「石炭火力発電のゼロ・エミッション化につながるIGCC(石炭ガス化複合発電)、CCS(二酸化炭素貯留・回収)などの実用化がどれほど進展するか」である。換言すれば、これらの三要素の行方によって原子力発電を求める日本社会のニーズが決まるのであり、原子力政策のみを考慮して各原子力発電所の要不要を議論することは出来ないのである。この点が原子力政策というイシューが、サブ・イシューである由縁だ。

 再生可能エネルギー政策も同様だ。「我が国のエネルギーバランス・フロー(図表1)」によれば、再生可能エネルギーが一次エネルギー供給に占める割合は、2011年時点で約7.4%に過ぎない。再生可能エネルギーはなぜこのような低い水準に留まっているのか。なぜならバイオマスは燃料供給の不安定さ、地熱・水力は開発期間の長さ、太陽光・風力は出力不安定性とエネルギー密度の低さ、といった問題をそれぞれ抱えているためだ。加えてバイオマスと地熱を除く再生可能エネルギーは発電用としてしか利用できない。それとは異なり、石炭は発電以外にもコークスとして、石油は輸送用燃料や化学製品として、天然ガスは都市ガスとして、利用できる用途の広さがある。これが化石燃料に88%も依存する事になった主要な理由の一つだ。ここでもいかに化石燃料を受容可能な価格で安定的に手に入れるか、そしていかに有効活用するか、というイシューが最重要であり、再生可能エネルギーの導入水準はサブ・イシューに過ぎないことが指摘出来る。

 地球温暖化問題についても同じことが言える。ご承知のように地球温暖化化石燃料の燃焼の積み重ねによって引き起こされる。様々な用途に使われる化石燃料の使用を減らすことが温室効果ガスを減らす最も有効な方法である。そのために化石燃料をいかに有効活用するか、という論点が日本国内における地球温暖化対策において最重要であることは異論の余地がない。このように地球温暖化問題も化石燃料の利用のされ方に左右されるイシューであり、化石燃料利用に付随するイシューのサブ・イシューであることが明確になった。換言すれば、日本の全国紙はエネルギー問題というイシューの全体像に着眼点を置くことが出来ていないという問題点を抱えているのである。

 それでは、いかに化石燃料を受容可能な価格で安定的に手に入れるか、そしていかに有効活用するか、という二つの最重要イシューに対する提案をいくつか見ていこう。

 まずは前者のいかに化石燃料を受容可能な価格で安定的に手に入れるか、というイシューについて見ていこう。橘川(2012)pp18-20は、以下のように提案している。


最も大切な点は、LNG(液化天然ガス)調達において購買力(buying power)を発動できる仕組みを構築することである。(中略)LNGの買い手がbuying powerを発揮する仕組みを作り上げさえすれば、LNGを相対的に廉価で調達することが可能になりつつあると言える。
この点で、きわめて示唆的なのは、韓国が輸入するLNGの調達を韓国ガスに一本化し、韓国電力の必要分まで韓国ガスが購入する仕組みを作り上げたことである。(中略)日本の場合も、LNG輸入に関して、電力会社とガス会社が協力し、このようなbuying powerを強める仕組みを作り上げなければならない。


 この提案は電力会社・ガス会社に対して、コスト削減を要求する現実的な提案だと言える。本来ならこのような提案を、日本の全国紙は行わなくてはならない。
 後者のいかに化石燃料を有効活用するかについては、石井(2011)pp178-179の提案が参考になる。


仮に、全面的に既存の石炭火力発電所天然ガス・コンバインドサイクル発電所に代替できれば、CO2排出量に関しては、単純計算で現存の原子力発電所が全てなくなっても、排出量は現状と殆ど変わらないことになる。(中略)
つまり、今後新規の原子力発電所を建設しなくても、既存の石炭火力発電所を、天然ガス・コンバインドサイクル発電所でドンドン代替していけば、最小のコストと最短の時間でCO2排出量の大幅削減は可能なのである。


 この提案も化石燃料を一緒くたにして悪者にする言説からは距離を置く、電力会社への現実的な提案である。

 以上、分析してきたようにサブ・イシューばかり取り上げる日本の全国紙の問題点が明らかになった。今後はなぜこのような狭量な報道ばかりが行われているのかについて、分析が必要かと思われる。


【注】
i日本経済新聞 環境・エネルギー特集ページ http://www.nikkei.com/tech/ecology/ 最終アクセス日2015.7.12
朝日新聞原発・エネルギー」特集ページ http://www.asahi.com/special/energy/ 最終アクセス日2015.7.12
産経新聞原発・エネルギー」特集ページ http://www.sankei.com/life/newslist/nuclear-n1.html 最終アクセス日2015.7.12
ii「安全保障(security)」という言葉には普遍的な定義が存在しない(防衛大学校安全保障学研究会編著『安全保障学入門』亜紀書房, 2009年, pp3)が、本レポートでは、2010年のエネルギー白書序節(http://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2010html/1-1-0.html 最終アクセス日2015.7.12)の定義に従い「エネルギー安全保障」を「国民生活、経済・社会活動、国防等に必要な『量』のエネルギーを、受容可能な『価格』で確保できること」と定義する。


【参考文献】
石井彰(2011)『エネルギー論争の盲点――天然ガスと分散化が日本を救う』NHK出版新書356
橘川武郎(2012)『電力改革――エネルギー政策の歴史的大転換』講談社現代新書2145

エネルギー論争の盲点―天然ガスと分散化が日本を救う (NHK出版新書 356)

エネルギー論争の盲点―天然ガスと分散化が日本を救う (NHK出版新書 356)


にほんブログ村 環境ブログ エネルギー・資源へ
にほんブログ村 ↑ブログ・ランキング参加中です。 クリックしていただけると嬉しいです。
社会・政治問題 ブログランキングへ サンプル・モニターの口コミ広告ならブロカン