一身独立

多動性を発揮し、「21世紀の百姓」を目指す27歳元エリートのブログ。

【ディスカッション・ペーパー】「『国際的な資源特権』が含む問題群とその解決策の検討」


【序論】

 本記事は「国際的な資源特権」という問題を取り上げる。まず「『国際的な資源特権』がどのように資源配分を歪め、グローバル貧困層の権利を奪っているか」という問いに答え、「国際的な資源特権」 が引き起こす問題群を明らかにする。次に「国際的な資源特権」 に対する解決策を検討する。最後に今後の課題を導出したい。
 「国際的な資源特権」による資源配分の歪みを修正できれば、グローバル貧困層が本来享受すべき天然資源による利益を得ることができる。この一点を持って、「『国際的な資源特権』がどのように資源配分を歪め、グローバル貧困層の権利を奪っているか」という問いは重要である。


【問題の所在】
 問題群を挙げる前に、目指すべき理想の状態を考える。その必要十分条件は二点ある。一点目は、「資源富裕国が資源の対価を搾取されることなく受け取る」ことである。二点目は、「資源富裕国が資源の対価を公平に分配する」ことである。
 次に「国際的な資源特権」 という問題の定義を確認する。ポッゲは「国際的な資源特権」を「ある国の内部で実効的な権力を行使する個人や集団であれば誰でも、その国の自然資源における国際的に法的効力ある所有権を与えることのできる特権(ポッゲ, 2010, pp260)」と定義している。彼は「国際的な資源特権」を、「資源の豊かな国々においてクーデターの試みや内乱への強い誘因を与える(同上, pp182)」民主化に逆行するものだとして問題視している。
 なぜ「国際的な資源特権」 が問題かは、(シンガー, 2005)に解りやすい例が載っている。


 ある人を力ずくでおさえつけてその人の腕時計を奪った盗人が、その腕時計を売却する権利を持つとは認められないと同じである。盗まれたものだと知りつつ、あるいは盗まれたものだろうとの合理的な疑いを持つ、その腕時計を購入する一般市民は、盗品受領罪を犯すことになる。(pp127)


 「腕時計」は資源富裕国の天然資源、「盗人」はクーデターで政権を簒奪した首領、「一般市民」は天然資源を購入する富裕な先進国を指している。ポッゲもシンガーも国内法ならば犯罪に当たる行為が、国際社会ではあまりにも当たり前に行われていること問題視している。
 次に「国際的な資源特権」 がどのような問題を引き起こしているか、確認する。「国際的な資源特権」を行使するような資源富裕国は、えてして順調な経済成長からは程遠い(注1)。いわゆる「資源の呪い(resource curse)(注2)」の問題である。その原因は二点挙げられる。
 一点目は、経済を天然資源に頼りすぎていることである。インドネシアは石炭・石油・天然ガスなどの化石燃料のみならず、スズ・ニッケルなどの金属資源にも恵まれ、パーム油なども輸出している。1970年代の二度の石油危機時に、オランダ病を発症しかけたが、1980年代の輸出志向工業化政策の成功によってこれを克服した。実際スハルト政権期の製造業の年平均経済成長率は、GDPの5%を大きく上回る12%であった。製造業が経済成長をけん引していたことの証左である。しかしスハルト政権崩壊以降、石炭とパーム油の輸出が増えるなどして再びオランダ病の影が忍び寄っている。製造業の年平均経済成長率はユドヨノ政権期には、GDP成長率を2%下回る4%で、経済成長の足かせとなっている(注3)。
 二点目は国全体のGDPは高くとも、貧困層の割合が圧倒的に多いことである。資源富裕国の統治者が資源の利益を被治者と分け合おうとしないのは、国内の貧困層も国際社会もその誘因を彼らに与えられていないためである。その理由は、国内の貧困層は多くの場合悪しきガヴァナンスによってチェックする術がないためである。国際社会は自分たちの既得権益を守るために、賄賂や一方的な取り決めを用いて資源富裕国の天然資源を買い叩いている(注4)。
 「国際的な資源特権」を得た統治者は、持続的な低経済成長、不公平な資源分配や政治的抑圧、汚職・腐敗などの悪しきガヴァナンスといった問題群を生みだす。しかし彼(ら)の統治を支えているのは、国際社会の承認である。端的に言えば、グローバルな制度や先進国政府の既得権益を守ろうとする態度、先進国国民の無関心が、資源富裕国における持続的な貧困の蔓延に繋がっているのである。
 それではこのような問題群を引き起こす「国際的な資源特権」 という問題の解決策には、どのようなものが考えられるだろうか。


【問題群に対する解決策の検討】
 以下では解決策を取る主体別に、「国際的な資源特権」 という問題に対する解決策を検討する。
 まず考えなければならない問いは、「国際的な資源特権」を得る者に課せられる条件は何か、である。国際社会は、ある国の主権を行使すると自称する統治者が現れたという結果ではなく、彼(ら)がどのように権力を得たかという過程に注目せねばならない。その意味では、ポッゲもシンガーも民主化もしくは民主主義に解決策を見出している点が興味深い。
 ポッゲは国際社会が取れる解決に向けた行動として、「民主制パネル」の創設を提案している。パネルは独立した海外の法学者によって構成され、ある特定の集団が政治権力を獲得し行使することが憲法に即して正当か否かを判断する役割を持つ。重要な点は、民主的な憲法が転覆された場合、民主制パネルはその憲法に対する承認を停止しなければならないことだ。それによって権威主義体制の御用機関となることを避けるのである(注5) 。
 シンガーはEUや米州、アフリカにおける民主化を促進するための国際文書を参照しながら、民主主義国をメンバー国とする貿易協定を結ぶことを推奨している。そのような協定によって、「尊敬される地球市民、そして民主主義の支持者として理解されることを望む企業は、こうした(通商の相手とする倫理的根拠がまったくない) 政府と契約を結ぶことを思いとどまるかもしれない(シンガー, 2005, pp129)」と想定できる。
 スティグリッツも富裕な先進国および国際社会が実践できる「行動指針」を10個提案している。(注6)「国際的な資源特権」との関連で特筆すべきは、3番目の提案の「証明書の発行」だろう。取引される天然資源が紛争や違法な森林伐採と関係がないことを証明する証明書を発行する制度を形成するのである。これによって”紛争ダイヤモンド”を売って武器を買っていた武装勢力から資金源を奪い、違法伐採していた森林業者を市場から締め出すことができる。


 資源富裕国政府ができる解決策としては、二点想定できる。一点目が輸出志向工業化である。グローバルな製造業のサプライ・チェーンの一翼を担うことによって、製造業を経済成長の柱に据えるのである。マレーシアが成功し、インドネシアが苦闘しながら歩んでいる道だ。製造業の勃興は民主化にも好影響を与える。製造業は多くの雇用を生み、政府にとっては税金を浅く広く取ることができるようになるという利点がある。一方雇用される国民から見れば、自分たちの納めた税金の使い道に関心を持つようになる。国家の支出への監視を強める誘因がはたらくのである。
 二点目に資源富裕国ができる政策としては、スティグリッツが「安定化基金」と呼ぶ制度の導入が挙げられる。天然資源による収入(ほとんどの場合、ドルなどの国際通貨立て)をプールしておく基金であり、平時は国外に投資して運用益を得るとともに、自国通貨の上昇を抑える役割を果たす。非常時には輸入品を買うための資金として取っておく。貧困層を抱える国では、天然資源を売って得た収入を国内ではなく国外に投資することは理解を得られないかもしれない。しかし天然資源を売って得たドルなどの国際通貨が大量に自国通貨に換金されてしまえば、他の産業の輸出競争力が減退し、大量の雇用が失われてしまう。オランダ病の発病である。これを避けるために、ノルウェイは石油を売って得た収入の大半を安定化基金にプールしているのである。
 資源富裕国に住む個人ができる解決策として、「オーフス条約」という条約の活用を提案したい。この条約では、公衆に「環境情報へのアクセス権」「意志決定への参加の権利」「裁判を受ける権利」を保障している。ナイジェリアなどでは、多国籍企業の石油開発によって、農地を汚染されるといった事例がある。このような場合、開発計画の実施前に土地所有者が意思決定に参加する権利が保障されていれば、彼らの利益と被害を考慮した開発に方向転換することができるだろう。
 これらの権利が保障されていたとしても、個人が情報も資金も圧倒的に上回っている資源富裕国政府や多国籍企業を相手に、対等に交渉を行うのは難しいだろう。押村によれば、これまでの一般的な責任概念においては、不当に権原を奪われた側が、


  ①加害者を突き止め、加害者の行為と被害の因果関係を立証しなければならない

   とされてきた。被害者がそれを首尾よく立証できたとしも、なお、


  ②加害者の側が当該行為の「不可抗力性」をもって抗弁すれば、被害者は加害者の責任を問えないし。損害の回復を請求できない(押村, 2008, pp144)


 という。押村も認めるように、このような場合は原因者が無条件に被害の回復に責任を負う「無過失責任」の概念を導入する必要があるだろう。
 富裕な先進国に住む個人が出来る行動として、まず挙げられるのは多国籍企業や先進国政府へのはたらきかけだ。そのようなアドヴォカシーを行っているNPOを支援するのも良いだろう。その一つの手段としてダイヴェストメントが挙げられる。
 ダイヴェストメント(divestment)とは投資(investment)の反対語で、資金を出さないことによって、不支持や抗議を表明する行為を指す。金融機関や機関投資家が、リスクとリターンを勘案してダイヴェストメントをする場合もあるが、市民運動の文脈では倫理的に問題のある行動をしている企業や政府に対する抗議を表明する手段として用いられてきた。古くはアパルトヘイトに抗議するアメリカの大学生が、アメリカ企業に南アフリカ企業と取引しないよう求める運動を行った。昨今ダイヴェストメントの対象として脚光を浴びているのは、気候変動に伴う地球温暖化の原因物質を取引している化石燃料関連企業である。
 クーデターなどの非民主的手段で権力を簒奪した統治者やその政府との取引が、倫理的に問題のある行動だという国際世論を形成するために、ダイヴェストメントは有効な手段だ。化石燃料に対するダイヴェストメントは既に3兆4千億ドルに上る。(注8)このように草の根から始まった運動が、国際社会で少なくない影響力を持つに至っている。


【結論】
 本記事では、まず「『国際的な資源特権』がどのように資源配分を歪め、グローバル貧困層の権利を奪っているか」という問いに答え、「国際的な資源特権」 が引き起こす問題群を明らかにし、最後に「国際的な資源特権」 に対する解決策を検討してきた。

 本記事で明らかに出来なかった課題は、本記事で提案した解決策の実施の際の優先順位付けの検討だ。まずこれが必要なのか、という問題がある。必要ならば優先順位の低い政策は実施を遅らせた方が良い、という結論が出せる。しかし解決策間で優先順位をつける評価軸については調査できなかったため、この点については今後の課題としたい。

 国際法の教科書で国家の要件の項目を読んでも、「国際的な資源特権」を問題視するような記述は見られない。まずは富裕な先進国の市民がこの問題に気付き、市民として声を上げるとともに、自国政府にはたらきかける必要がある。
 スティグリッツが指摘するように「資源の呪い」は、ノルウェイボツワナ・マレーシアなどの反例があり、避けることができる。個人にも政府にも資源富裕国に住んでいても富裕な先進国に住んでいても、問題解決のためにコミットできることがあることは、希望が持てるのではないだろうか。


【脚注】
(注1) (ポッゲ, 2010, 第4章注175)によれば、1975年から2004年の期間中、資源富裕国の経済成長率は、OECD諸国平均を大幅に下回っていた。
(注2)1970年代から80年代のオランダで、この現象が最初に確認されたことから、「オランダ病(the Dutch decease)」とも呼ばれる。天然資源開発とその輸出が、自国通貨高ドル安を招き製造業の競争力を落とし、製造業が経済成長に貢献できなくなる現象を指す。
(注3) この段落の記述は(佐藤, 2011, pp20-24)による。
(注4)スティグリッツ, 2006, pp219-224
(注5)この段落の記述は(ポッゲ, 2010, pp249-252)による。
(注6)スティグリッツ, 2006, pp243-248
(注7)交告・臼杵・前田・黒川, 2015, pp169-172
(注8)2015年12月3日付け日本経済新聞電子版『化石燃料産業への投資撤退、資産規模420兆円 環境団体発表』(最終アクセス日2016年1月2日)http://www.nikkei.com/article/DGXLASGG03H0A_T01C15A2EAF000/


【参考文献】
押村高(2008)『国際正義の論理』講談社現代新書
交告尚史・臼杵知史・前田陽一・黒川哲志(2015)『環境法入門(第3版)』有斐閣アルマ
佐藤百合(2011)『経済大国インドネシア――21世紀の成長条件』中公新書
シンガー, ピーター著・山内友三郎, 樫則章監訳(2005)『グローバリゼーションの倫理学』昭和堂
スティグリッツ, ジョセフ著・楡井浩一訳(2006)『世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す』徳間書店
ポッゲ, トマス著・立岩真也監訳(2010)『なぜ遠くの貧しい人への義務があるのか――世界的貧困と人権―― (第2版)』生活書院


なぜ遠くの貧しい人への義務があるのか―世界的貧困と人権

なぜ遠くの貧しい人への義務があるのか―世界的貧困と人権


にほんブログ村 環境ブログ エネルギー・資源へ
にほんブログ村 ↑ブログ・ランキング参加中です。 クリックしていただけると嬉しいです。
社会・政治問題 ブログランキングへ サンプル・モニターの口コミ広告ならブロカン