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エネルギーで一身独立

自由・自立・自律と、エネルギー問題を中心にサステナビリティに関する有益な情報を提供するための記事を書いています。

(IRESA用)「炭素制約:化石燃料依存から早期に脱却すべきか」

ダイヴェストメント ノート 個人活動 日本の包括的なエネルギー政策 気候変動


注:IRESAの6月25日の勉強会用の記事である。「反点授業」を行うので、こちらの記事を読んで自分の意見を固めた状態で、当日参加して欲しい。

キーワード:気候変動(climate change)、気候正義(climate justice)、炭素予算(carbon budget)、座礁資産(stranded assets)、ダイヴェストメント(divestment)。

「気候変動」とは?

日本では「温暖化」もしくは「地球温暖化」という用語が用いられることが多い。簡単に言えば温暖化の結果として、気候が変動し様々な問題が惹起される。この文章では国際的に用いられる「気候変動」を用いることにする。
太陽から発せられた熱の一部は、地面を反射して大気圏外に逃げている。しかし温室効果ガスの濃度が高まると、大気圏の中に留まる熱の割合が増え、大気の温度が上昇する。これが地球温暖化の基本的な仕組みだ。
産業革命前まで、275ppm(大気に占める濃度の単位)だった二酸化炭素濃度は、現在約400ppmまで上昇している。気候変動に特化したNPOである「350」は、350ppm以下で安定させることを目標としており、その目標を組織の名前にしている。
大気中に排出される温室効果ガスのほとんどが、自動車・電力生産・鉄鋼業などのエネルギー起源の二酸化炭素であり、気候変動問題はエネルギー問題と切っても切り離せない関係にある。

「気候正義」、気候変動のどこが問題か?

それでは気候変動の何が問題なのだろうか。
まずは経済的被害が挙げられる。経済的リスクはいくつも指摘できるが、代表的なのは海面上昇による沿岸都市への影響と食糧生産への影響だ。IPCCは2013年、今世紀末までに海面上昇は最大82cmになると予想した。しかし最近出た論文では、それを上回る可能性も指摘されている(Newsweekより)。食糧生産への影響は、因果関係が間接的なので、解りづらいかもしれない。基本的には「温暖化による気温上昇→水資源の減少→農業に使える水の減少」という経路を取る。生産高ベースで食糧の半分弱を輸入に頼る日本は、食糧生産を海外の水資源に依存している。その水資源が気候変動によって減少すれば、日本に輸入される食糧の供給や価格にも悪影響が及ぶ恐れがある。
また高潮や台風・ハリケーン・サイクロンによる人的被害も見逃せない。
気候変動問題は、原因者と被害者が分かれている場合が多く、また被害者が社会的弱者である場合が多いことを踏まえて、人権問題として扱うよう求める声がある。このような主張をする人々が、気候変動問題に社会正義を求めるために「気候正義」という言葉を使う。

「世界が掲げている目標」

ここまで問題のある現状を説明してきた。それでは世界は、気候変動対策に向けてどのような目標を掲げているのか。
2015年、パリで行われたCOP21において、今世紀末に世界の平均気温上昇を産業革命前と比べて2℃未満にするという目標が合意され、かつ1.5℃未満にするという努力目標も採択された。
この目標のために、昨年のエルマウ・サミットにおいて日本を含むG7諸国は2050年時点で1990年比80%削減という目標を確認した。
先日伊勢志摩サミットがあった。首脳宣言における気候変動の扱いは前回と比べ排出削減数値目標への言及がないなど、後退している。このあたりは前回エルマウ・サミット議長国のドイツと、今回の議長国である日本の、気候変動対策への熱意の差なのかもしれない。
その他主要国が発表している2030年までの目標については、以下のリンク先を参照頂きたい。

https://www.jepic.or.jp/data/graph07.html


「炭素予算」とは?

「炭素予算」とは、世界の平均気温上昇を産業革命前と比べて2℃/1.5℃未満に抑えるために、排出することの出来る炭素の量である。
ポツダム気候影響研究所の調査は、気温上昇が 2℃を超える確率を 20%に抑えるには、2000 年から 2050 年までの世界の炭素予算(炭素の排出許容量)は、CO2換算で 886 ギガトンであると算出している。21 世紀最初の 10 年の排出量を差し引くと、2050 年までの 40 年間 に残されている予算は、565ギガトンである。
もう少し新しく、かつ厳しい仮定のデータも紹介しよう。気候変動NPO「350」は、1.5℃未満の目標を達成するためには、あと243ギガトンしか燃やせないと主張している。現在世界で燃やされている化石燃料から排出される二酸化炭素は、約40ギガトンで、6年で使いつくしてしまう計算になる。
イギリスは2008年に「気候変動法」を制定した。5年ごとに国全体で排出できる二酸化炭素の量が割り当てられていて、それは以下の表のようになっている。


1st Carbon budget (2008-12)3,018 MtCO2e23%
2nd Carbon budget (2013-17)2,782 MtCO2e29%
3rd Carbon budget (2018-22)2,544 MtCO2e35% by 2020
4th Carbon budget (2023-27)1,950 MtCO2e50% by 2025

座礁資産」とは?

座礁資産とは、現在埋蔵量として資産価値を持っている化石燃料化石燃料関連インフラのうち、気候変動規制が行われることによって、その価値がなくなる恐れがある資産を指す。
カーボントラッカー(イギリスのNPO、気候変動対策を経済・金融の視点から分析)によれば、化石燃料埋蔵量に含まれる炭素の量は、2795ギガトン。350によれば、3670ギガトンに上る。しかし上記したように、2℃/1.5℃目標を達成するためには、このうちのほとんどは使えないことになる。
カーボン・トラッカーは、気候変動規制に伴って化石燃料資産が、資産として評価されなくなる状態をカーボン・バブルと呼び警鐘を鳴らしている。今まで資産だった考えられていたものが、ある日突然資産でなくなり、混乱と損害をもたらす恐れがあるのだ。
一方このように化石燃料のリスクばかりを強調する主張には懐疑的な声も存在する。原子力発電には訴訟による稼働率低下・運転停止リスクがあるし、再生可能エネルギーにもバックアップとなる火力発電の同様のリスクがあるためだ。

「ダイヴェストメント」とは?

ダイヴェストメントは、気候変動や座礁資産の問題を受けて始まった金融機関の取り組みや市民運動を指す。日本語では「投資撤退」と呼ばれ、倫理的に問題のある行動をしている企業から投資を引き上げて抗議を示すのが古典的なダイヴェストメントだ。最近では単純にリスクとリターンを考慮して機関投資家がダイヴェストメントに踏み切る例もある。
ダイヴェストメントを表明した機関投資家の中で有名なものを以下に挙げる。

金融機関:バンク・オブ・アメリカ、シティなど
年金基金ノルウェイスウェーデン、オランダなど
大学:スタンフォード大学オックスフォード大学など

その他ハーヴァード大学やカナダのマクギル大学などでも学生がダイヴェストメントを訴えている。
日本国内での化石燃料原子力産業への投融資に関しては、350.orgが調査を行っている。三菱東京UFJ、みずほ、三井住友、三井住友信託などの日本のメガバンクグループによる2014年の化石燃料・国内石炭火力増設・原子力関連企業への投融資は合計で約5兆3892億円に上る。また、日本の大手生命保険会社は、化石燃料および原発関連企業へ3兆3300億円の投融資を行っていた。
一方、日本の銀行グループの化石燃料への投融資額に対し、再生可能エネルギーへの投融資額は約 8分の1の規模であった、としている。

Question to Consider:あなたはどの意見に賛成か?

6月25日当日に議論するので、以下の中から自分の意見を決めてきて欲しい。

1)国内での気候変動対策のために、できるだけ早く化石燃料産業から撤退すべき。
2)国内での気候変動対策のために、時限を区切って化石燃料産業から段階的に撤退すべき。
3)国内での気候変動対策には限界があり、海外での温室効果ガス排出削減プロジェクトを重視すべき。
4)国内での気候変動対策を出来る限り実施し、足りない分は海外での温室効果ガス削減プロジェクトで補うべき
5)エネルギー安定供給・供給源多角化のため、化石燃料でのエネルギー供給を現政権の目標程度に維持すべき。


(注)日本政府は昨年6月に、2030年の望ましい電源構成(エネルギー・ミックス)として、 ●再エネ 22~24%程度●原子力 20~22%程度●LNG火力 27%程度●石炭火力 26%程度、という目安を掲げている。


【参考文献】
諸富徹、浅岡美恵(2010)『低炭素経済への道』岩波新書
Newsweek『温暖化――想定外の未来』2015年8月25日号
350.org Japan, パンフレット

【参考リンク】
350.org Japan facebookページ
https://www.facebook.com/350japan/


【宣伝1】
私のブログの過去記事が、エネルギー問題に関する論考が集まったwebサイトである「GEPR」と、硬派な記事を展開してネット世論をつくっている「アゴラ」に掲載された。
http://www.gepr.org/ja/contents/20160606-04/

【宣伝2】
自分が出入りしている「350.org Japan」の古野氏の論考もGEPRに掲載された。こちらもぜひ。
http://www.gepr.org/ja/contents/20160530-04/

低炭素経済への道 (岩波新書)

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Newsweek (ニューズウィーク日本版) 2015年 8/25 号 [温暖化 想定外の未来]

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